※本稿は旧漢字を新字体に改めて表記するものとする

※本稿は真言教学の立場から執筆する

※本稿は大要を更に簡素に論じたものにして、子細について指南を求める者は門を叩かれたい

◎宗名

真言宗の名義は江戸時代の僧・蓮體比丘による『真言開庫集』巻三の第三に「真言宗得名之事」に委しく記される。

同書には「『金剛頂分別聖位経』に真言陀羅尼宗とは一切如来秘奥の教・自覚聖智修証の法門なり〜中略〜仏みずから経の中に宗の名を立て給う。」とあり。『六波羅蜜経』には「陀羅尼蔵」と号して同義に当たる。このように仏さまが自ら宗の名を立てた宗名は真言宗以外の宗派は無し。

天台・華厳・法相・三論など末世私建の宗は、みな祖師の意にて名を立つ。故にその意は狭まり教門は偏り、遍く一切の機根を摂することが出来ず。

華厳や三論…所依の経論から命名 天台…祖師の住山の地名に基づき命名 

律や浄土…信仰実現の手立てにより命名 日蓮宗…祖師の法名を掲げて命名

『大日経の疏』には「横統一切仏教」と釈して、すべての法門を包摂した宗名とされる。真言密教では三密と云いて、身・口(語)・意に、それぞれ印契・真言・観念を配当す。その中で唯一真言と表現するのは、真言を念誦すれば印の義と観念の義を兼ねるため。『大日経』の初め「入真言門住心品」と題し、諸儀軌にも念誦次第や念誦儀軌とあるのもこの理由。

唐の義浄三蔵は「呪蔵」・「持明呪蔵」と善無畏三蔵と一行禅師は「陀羅尼」・「陀羅尼蔵」、金剛智・不空両三蔵は「瑜伽宗」・「瑜伽密教」などと呼称しました。『分別聖位経』の「真言陀羅尼宗」の名称自体は少数派である。高祖大師は『御請来目録』の中で「密蔵」の名称を用いられる。いずれも対象は同じくして翻訳の違いによるもの。要約するに仏さまが最上の教えを述べられ、その教えが真言密教であり宗名となった。

◎所依の経軌

・大毘盧遮那成仏神変加持経 七巻(略称:大日経)

・金剛頂一切如来真実摂大乗現証大教王経 三巻(略称:金剛頂経)

・蘇悉地羯羅経 三巻(略称:蘇悉地経)

・金剛峯楼閣一切瑜伽瑜祇経 二巻(略称:瑜祇経)

・大毘盧遮那仏説要略念誦経 一巻(略称:要略念誦経)

上記が五部秘経と称される全十六巻から構成される五つの根本経典。

◎真言宗の本尊

普門総徳の大日如来 あるいは 金胎両部の曼荼羅

真言秘密の法門における最上の教王は大日如来。併しながら特定一尊に限定される意味ではないことが甚深の釈義。他宗における釈迦如来や阿弥陀仏などに代表される所謂一門の別徳とは異なる。(※真言と天台では釈尊の位置付けが異なる)四仏の智慧の総体を法界体性智と呼称して「大日如来」と表す。この大日如来は遍法界の法身にして、万物の根本として一切の菩薩・天などが顕現してゆく、その状が胎蔵法曼荼羅である。また、大日如来に包摂代表される智慧の獲得に至るはたらきと修道論を金剛界曼荼羅が示される。

総徳たる大日如来を本尊と仰ぐことは曼荼羅世界すべてを対象として、則ち一切の仏菩薩などの別徳も含む。故にあらゆる曼荼羅諸尊全ての経典儀軌を遍く研学することが真言宗の姿勢。特定の経典や本尊を各別に限定して偏狭に習学するのではなく、ただ純粋に「仏教」を遍学して修めるのが特徴である。平安末期の興教大師覚鑁上人は一切仏菩薩の本誓は大日如来に非ざる事なしと仰られた。例えば、阿弥陀如来は四十八願、釈迦如来は五百願、薬師如来は十二願にして大日如来の本誓は無量無辺に比類すること能わず。

大日如来の梵名を摩訶毘盧遮那仏(マハーヴァイローシャナ)と称する。摩訶は大・多・勝の三義あり。毘盧遮那は世間法に則せば日(太陽)の別名なり。即ち暗闇(煩悩無明)を除き明らかならしむ義。

◎密教と顕教

弘法大師の御作『弁顕密二教論』に応化(釈迦如来)の開説を名付けて顕教と云う。その言葉は顕略にして機に適えり。法仏(大日如来)の説法、これを密蔵と云う。その言葉は秘奥にして実説なりと。また顕教の正覚は三劫成仏を説き、密教には即身成仏を説く。釈尊は対機説法をされたが大日は常恒説法である。

天台宗の密教(通称:台密)では、法華一乗を掲揚する宗旨のゆえにその教主たる釈尊を離れて上位の仏を立てることに難儀あり。釈尊の降誕・成道・転法輪なくば密教の発生はなしと。故に釈尊が諸法根源たりとして、その心に大日ありとする。されども、諸行無常・盛者必衰の理などは皆な釈尊が覚知し説法されて広く知られるようになるも既にこの世界の法理として存在するものなり。その諸法万物の理と総体を真言宗(通称:東密)では大日如来と呼称する。この普遍真理そのものの働きたる、大日如来は過去世・現在世・未来世に亘り、止むことなく影響をもたらしている。これを常恒説法と称する。

また、釈尊直説の戒律は世間法に照らして善悪を判じて、当時の印度における社会通念上の礼儀作法に基づく。密教の三摩耶戒は法界の規則。顕密二教の戒律具足してこそ最勝なり。